装いの巻
2015年10月24日
今年も金木犀の甘く優雅な香りが漂い始めた。
かつては、その秋の訪れに伴い、浮ついた心持ちを持ったものだが
今ではどこか妙に心苦しく、言いようのない喪失感まで感じるようになった。
歳を重ねたところで何も変わりゃしないと思ってはいても
やはり重ねた分だけ遠退いてゆく何かがあるのだろう。
別段、神妙になっているわけではない。
色々と考える年頃というやつだ。
何でもない小説の一文に、ほろほろと涙を零してしまったり。
何でもない言葉の一脈に、おろおろとたじろいでしまったり。
まるで思春期の乙女のごとく、感受性の高ぶりを感じている。
風化の巻
2015年10月11日
5年ほど住んだ今の家から引っ越すことにした。
窓際のチェストの木目が随分と陽に焼けている。
置きっぱなしだった雑誌の山をどけてみると
まだここに来たばかりの頃の、濃いニスの色が残っていた。
ついこの間引っ越してきたような気がする。
しかし、こうして確かに時間は流れているのだ。
そして、これからも同じように流れてゆく。
妙な虚無感が全身を走っていくのを感じた。
このチェストのように、誰もが抗うことのできない現実と対面している。
みな気にかけぬよう過ごしてはいても
ほんの些細な物事が、とてつもなく大きな虚しさを連れてくることだってある。
時間の流れと いうのは残酷なものだ。
この窓から見える景色も、匂いも、もう暫くすればお別れなのだと思うと感慨深い。