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ウッシーのコラム

盛りの巻

2015年06月21日

それは曇天の匂いに紛れてやってきた。
まだ幼かった頃。
夏の盛りを迎える前の、ちょうど6月の今時分であった。
山間いの田舎町に雨の時期がやってくると
播磨富士が神々しく霧に浮かぶ。
取り立てて高くはないが
地の人間からは「笠形さん」と親しまれている山だ。
濛々たる煙霧が空まで届き
極楽へと続く道のように荘厳な情景を露にする。
陽が落ちれば、川辺に小さな明かりが灯る。
それは一つ二つと次第に広がり
気付けば眼前には蛍の乱舞が現れる。
まるで女郎花が乱咲しているように
幾万の蛍火が眩ゆく暗闇を照らし出すのである。
木々の揺れる音
川のせせらぎ
蛙の聲
それ以外は一切の静寂だ。
なにもない。
恬淡、佳絶の極み。
そんな生暖かく風のない夜は
決まって鼻を掠める匂いがあった。
土の匂い、草の匂い
それらが交じり合った田舎特有の匂い。
春でも夏でも秋でも冬でもない。
この6月の雨の時期でないと感じることができない匂いがある。
それがふと、この大都会のど真ん中にいながら鼻を掠める瞬間がある。
風にのってやってきたのか
雨に運ばれてきたのか
大人になった今でも、それらは私をあの銀河の一片へと連れ戻してくれる。